桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
軽く身体を揺すられて、重い瞼を持ち上げる。
醒めきらない視界に写ったのは、まるで見覚えのない景色。
ここは…どこだろう…?
「翔さん、見て? 懐かしいでしょ?」
俺の隣に座った男が、仄かに弾んだ声を上げる。
「変わってないなぁ…。あっ、ほら、アソコ、翔さん良くアソコに立ってさ、俺らに檄飛ばしてたよね」
男が身を乗り出して窓の外を指さす。
あれは…、学校…?
「あん時の翔さん、サッカーも超上手くてさ、かっこよかったな…」
俺が…?
サッカーなんてしてたんだ…
「あっ、あれ覚えてる? 翔さん達の卒業試合のメンバーに俺が選ばれた時さ、超ブーイングの嵐でさ、でもそん時翔さん言ってくれたんだよな…、雅紀じゃなきゃダメなんだ、ってさ…」
男の顔が少しだけ曇る。
そして乗り出した身体をシートに深く沈めると、深いため息を一つ落とした。
「覚えて…ないか…」
「……ごめん」
独り言のように呟いた言葉に、俺は何故だか謝ることしか出来なくて、俺の手を握っていた男の手から、そっと自分の手を引き抜いた。
仕方ないじゃないか…
だって俺にはその時の記憶なんてないし、第一ここがどこなのかも、俺が誰なのかも分からないんだから…。
「うぁぁぁっーーーーーっ!!!!」
腹の底から湧き上がってくる怒りにも似た苛立ちに、俺は激しく頭を搔きむしった。