桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
暫くすると、廊下の向こうから、一人の男がこちらに向かって歩いてきた。
あれは…雅…紀?
「お待たせ…」
そう言った雅紀の顔は、すっかり色をなくしていて…
心なしか目が潤んでいるように見えるのは、俺の気のせいだろうか?
「どうかしたのか?」
俺と目を合わせようとしない雅紀に声をかける。
「いえ、どうもしないですよ。行きましょうか?」
悲しげな笑顔が俺を見下ろし、俺に向かって手が差し出された。
何がお前をそんなに悲しい顔にさせてるんだ…
問いかけたい気持ちを押し殺して、俺はその手を掴んだ。
その原因が俺にあるとも知らずに…
三人で並んで無機質な建物を出ると、少しだけ曇った空を見上げた。
「降ってきそうですね?」
同じように曇り空を見上げた二宮が言う。
雨は嫌いだ…
彼と別れたあの日を思い出すから…
彼の泣き顔を思い出すから…
「けっこう時間食っちゃったんで、急ぎましょうか」
駐車場に向かい、二宮の運転する車に乗り込んだ。
その間も雅紀の手は、俺の手をしっかり握ったままだ。
でも、それは全然嫌じゃなくて…
寧ろ、安心する。
俺は車窓を流れる景色を眺めたまま、ゆっくりと瞼を閉じた。
俺は、
一体どこに向かっているんだろう…