桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第7章 I
無機質な空間を、自分よりも少しだけ小柄な男に手を引かれて歩く。
俺は一体、どこに向かっているんだろう?
それにこの男は?
「翔さん、何飲みます? 奢りますよ?」
俺に言っているの、か…?
「あ、あの…コー…」
続く言葉が思うように言えなくて、俺は言葉に詰まってしまう。
俺は何を言いたかったんだろう…
「コーヒー? それともコーラ? どっちでもいいですよ?」
自販機に小銭を入れながら、男が振り返る。
「じゃ、じゃあ、コーラ、で…」
男がOK、と小さく言って、自販機のボタンを押すと、ガラガラ音を立てながらペットボトルが落ちてくる。
「はい、どうぞ?」
「あ、ありがとう…ございます」
差し出されたペットボトルを受け取る。
「そこ、座ります?」
壁際に置かれたベンチを親指で指し、また俺の手を引く。
ベンチに並んで座り、ペットボトルのキャップを捻ると、プシュッと音を立てて、甘さとほんの少しの酸味を含んだ匂いが、鼻をツンとさせた。
両手で握ったペットボトルに口を付け、ゆっくり傾ける。
途端に口の中に広がる刺激に、思わず身震いをしてしまう。
でも、それと同時に、頭の中がスッと冴えて行くような、不思議な感覚がした。
「火傷、大したことなさそうで良かったですね?」
俺の指に残る赤く腫れた痣…
その痣がいつ出来たものなのか、俺にその記憶は、ない…。