桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第6章 A.
「そうだよ? 僕は彼の友達なんだ」
戸惑う俺を察してか、井ノ原先生が助け舟を出してくれる。
その言葉に安心したのか、翔さんの顔が少しだけ綻ぶ。
そして突然立ち上がると、シャツのポケットを漁り、何かを取り出した。
「あぁ、そうでしたか。俺は…あの、しょ、翔…、櫻井翔です」
深々と頭を下げ、井ノ原先生に向かって両手を差し出す。
でも、その手には何も握られてはいない。
名刺を出してるつもり、なんだと思う。
「これはこれはご丁寧に、どうも」
井ノ原先生も翔さんに付き合って、名刺を受け取る”フリ”をする。
酒でも飲んでたら、今この目の前で繰り広げられるやり取りだって、きっと笑い飛ばせたんだと思う。
でも今は…ちょっと笑えないや…
だって、二人共ふざけてるわけでも何でもないんだから。
「立ち話もなんですから、座りましょうか? ね?」
人の良さそうな笑顔を浮かべて、翔さんに椅子に座るように言う。
きっと、井ノ原先生はこんな光景を、何度も目の当たりにしてきたんだろうな…
翔さんを混乱させないように、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
「櫻井さん、今日はどうやってここまで?」
「それなら…」
言いかけた俺に、井ノ原先生が小さく首を振って見せた。
それは、黙ってろ、ってことだよね?
俺は出かかった言葉を飲み込んだ。