桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第6章 A.
「車で…」
暫く考えた後、翔さんが思い出したように口を開いた。
「智君は免許を持っていないから、俺の運転でここまで」
実際はニノの運転だ。
それに俺は、ペーパーではあるけど、一応免許は持っている。
「そうですか。それはお疲れになったでしょうね?」
「いえ、大したことは有りませんよ」
至ってまともな受け答えをする翔さんに、井ノ原先生は表情一つ変えることなく、ボールペンとメモ帳、そして携帯電話を見せると、それをテーブルの上に並べた。
「櫻井さん? コレ、何だか分かりますよね?」
「勿論です。ボールペンに電話、それにメモ帳ですが、それが何か?」
翔さんが怪訝そうな表情で井ノ原先生を睨み付ける。
「そうですね、これは失礼しました」
臆することなく井ノ原先生はテーブルの上の物を、白衣のポケットに仕舞った。
一体何がしたいんだろう?
俺はニノと顔を見合わせ、首を傾げた。
その時だった、堪らずといった様子で翔さんが腰を上げた。
「あの、俺急ぐんで、この辺で…」
そう言った顔に、苛立ちの色が浮かぶ。
「行くよ、智君。まったく、付き合ってられないよ」
俺の腕を引き、歩を進めようとする翔さんを、井ノ原先生が引き留めた。
「じゃあ、これで終わりにするので、もう少しだけお付き合いいただけませんか?」
まったく慌てる様子もなく、井ノ原先生が翔さんの顔を見上げた。