桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第5章 R
扉という扉を全部開けて回った。
風呂も、トイレも…全部。
でも、そのどこにも翔さんの姿はない。
玄関の鍵はちゃんとかかっていた。
…ってことは、この部屋の中のどこかにいる筈。
あと、探してないのは、物置として使っている部屋のみ。
もしここにもいなかったら?
いやいや、そんな筈はない。
俺はゴクリと息を飲んで、襖をそっと開けた。
「翔…さん…?」
返事は…ない。
でも、その代わりに聞こえた、カタンと何かが崩れる音。
「翔さん、いるんでしょ?」
やっぱり返事はない。
俺は蛍光灯の紐を引っ張った。
…いた。
パッと明るくなった部屋の片隅に、まるで物に同化するかのように、身体を小さく丸めた翔さんが蹲っていた。
良く見ると、その身体は小刻みに震えていて…
俺は極力翔さんを驚かせないよう、翔さんの前にしゃがみ込むと、ボサボサの髪をそっと撫でた。
「こんなとこで何してたんですか?」
俺の声に気づいたのか、翔さんがゆっくり顔を上げる。
でも、その顔は涙に濡れていて…
「…ごめん」
俺は思わず翔さんを抱き寄せ、謝罪の言葉を耳元に囁きかけた。
何に対してだか分かんないけど、翔さんの泣き顔があまりにも悲しそうで、俺はそうせずにはいられなかった。