桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第1章 S
どれにスっかな…
陳列棚には美味そうな弁当が、所狭しと並ぶ。
これにスっか…
手に取ったのは、割引きシールの貼られた唐揚げ弁当。
どうせなら、序に明日の分も…
『ちょっと何アレ…、やだァ…』
『臭くない?』
二つ目の弁当に手を伸ばしかけた俺の背後で、ヒソヒソと囁き合う声。
『お客様困ります…』
続いて聞こてきた、おそらくは店員の声。
俺は伸ばしかけた手を引っ込め、後ろを振り返った。
…ホームレス…?
所々穴の空いた背広に、爪先が見え隠れするボロボロの革靴…
伸び放題の髪はボサボサで、顔の半分は髭で覆われている。
ソイツが店の入り口付近で、店員と押し問答を繰り返していた。
『金なら…』
穴の空いたポケットを探り、有り金を汚れた手のひらに載せ、店員に向かって差し出すが、
『ほんと、困りますから…』
冷たくあしらい、店員が自動ドアの向こうにホームレスを追いやる。
そして、深々と頭を下げると、一言…
『お騒がせしました!』
と、店内に響き渡る声で謝罪の言葉を述べた。
騒動も収まり、俺は再び棚に手を伸ばし、二つ目の弁当を手に取った。
アレ…?
あの声…、どこかで聞き覚えがあるような…
それにあの“目”…
俺はあの“目”をした人を知っている…?
頭に“?”をいくつか浮かべたまま、俺は二つの弁当と、ペットボトルのお茶を手に、レジへと向かった。