桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第4章 U
暫く水を流した後、”雅紀”が濡れた俺の手をタオルで拭き取ると、今度はビニールの袋に入れた氷を、赤くなった指先に宛がった。
「大したことはなさそうですけど、ほんと、何やってんすか…」
「何、って…。俺は別に何も…」
そう…、俺は何もしちゃいない。
現に、この真っ赤に腫れた指先だって、どうしてこんなことになっているのか、自分でも不思議で仕方がないんだ。
「俺は一体何を…?」
俺の手に氷を宛がいながら、フーフーと息を吹きかけていた”雅紀”が顔を上げる。
「もしかして…覚えてないんですか?」
俺はそれに黙って頷く。
こんなにも赤く腫れあがっているのに、この指先には痛みすら感じない。
そう、まるで全ての感覚が麻痺してしまったような、そんな感覚だった。
「取り敢えずさ、飯済ませちゃいましょうか? 後で薬買ってきますから」
そう言って”雅紀”は俺の左手にスプーンを握らせた。
でも…、
これをどう使っていいのか…
分からない。
俺は一体どうしてしまったんだろう…
頭の中にかかった”靄(もや)”は、一向に晴れる気配はない。
それどころか、どんどん広がって行っているとすら思えてくる。
俺が俺でなくなって行くのを、俺は心のどこかで感じていた。