桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第4章 U
「飯、食わないんですか?」
俺の目の前で、俺を変な目で見て来るコイツは…誰だ?
「翔さん?」
“翔”…
それが俺の名前なのか?
「もしかして、腹、減ってないとか? だったら片付けますよ?」
目の前の男が、俺の前から食べ物を奪おうとする。
俺の物なのに…
「やめろ! 俺の物に触るな!」
怒声と共に、俺の目から涙が零れ落ちる。
「やめて下さい。お願いします…」
俺は白米がこんもり盛られた茶碗を、両手でしっかりと握り締めた。
そしてそれを手に、俺は席を立った。
キッチンをウロウロと歩き回り、玄関の上がり端に腰を下ろした。
「翔…さん? 何やってんですか…?」
えっ…
俺は一体何…を…?
どうして、俺は玄関で…?
茶碗を握りしめて、一体何を…?
「あの、さ…、飯、食うならこっちで食べない? そこ、寒いっしょ?」
言われた途端、コンクリートの冷たさが、素足の爪先から伝わってくる。
「あ、あぁ…、そう、だよ、な…」
ノロノロと腰を上げ、ダイニングチェアに移動した俺の手に、雅紀がスプーンを握らせた。
「慌てなくてもいいからさ、ゆっくりね? …取ったりしないからさ…」
悲しげに歪む雅紀の顔を見ながら、俺はゆっくりとスプーンを口に運び始めた。