桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第4章 U
「おい、スーツ出してくれよ。急がないと…」
…どこに行くんだった?
スーツ着て、急いで、俺はどこに行くつもりだった?
「翔…さん?」
えっと、コイツは確か…
ああ、そうだ、“雅紀“…だったよな?
「あの…さ、翔…さん?」
「ん、あ、なんだっけ?」
“雅紀”の顔が不安そうに曇っていく。
でも、俺には何がそんなに不安なのか、さっぱり分からない。
「と、取り敢えずさ、飯にしない? 腹、減ってるでしょ?」
”雅紀”が俺の腕を引いた。
「ほら、ここ座って?」
ダイニングの椅子を引き、俺にそこに座るようにと促す。
テーブルの上には炊き立ての白米と、おそらくはインスタンドだろう、味噌汁が置かれていた。
「本とはさ、目玉焼きとか作りたかったんだけどさ、玉子切れてて…。こんなモンしか用意出来なくて…」
申し訳なさそうに頭を下げて見せる”雅紀”。
「い、いや、十分だよ。いただきます」
俺は手を合わせることなく、味噌汁の入ったお椀の中に手を突っ込んだ。
小さな豆腐を指で摘まみ、それを口に入れた。
「ちょっ、何やってんすか!」
”雅紀”が慌てた様子で俺の手を掴み、俺はシンクの前まで引き摺られる。
俺の手に冷たい水道の水が浴びせられた。