桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第4章 U
俺はベッドから抜け出し、覚束ない足取りで部屋の中を歩き回った。
何度も何度も、同じ場所を行ったり来たり…
それを繰り返す内、ガラス戸の向こうから誰かの呼ぶ声が聞こえた。
「飯、出来ましたよ」
ガラス戸が開き、覗かせた顔に、俺の胸に懐かしさが込み上げた。
「お前、雅紀か? いやぁ、久しぶりだよな? 元気してたか?」
そう、コイツは俺の高校時代の後輩だ。
同じサッカー部に所属していた、俺が最も目をかけていた後輩の雅紀。
俺は懐かしさのあまり、雅紀の手を掴むと、そこに自分の手を重ねた。
「翔…さん、なんだよ…ね?」
「そうだよ? 何言ってんのお前。それよりさ、なんか良く分かんねぇけど、迷惑かけちまったみたいだな」
明らかに俺の物ではない部屋に、この服。
大方、酔っ払った挙句、転がり込んだに違いない…
俺はそう思っていた。
「そんなことより、今何時だ? 俺、会社行かないと…。なぁ、俺のスーツは?」
見渡す限り、この部屋のどこにも俺のスーツは見当たらない。
「時間ねぇんだよ。今日は大事な取引先との約束があんだよな…」
俺はパラパラと額に落ちてくる髪を、無造作に掻き上げた。
あれ?
俺、こんなに髪長かったっけ?
いや、そんなことは今はどうでもいい。
まずは会社に行かないと…
「なぁ、俺のスーツどこ?」
俺は、トーストを手に、呆然と立ち尽くす雅紀の顔を覗き込んだ。