桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第3章 K
ベッドから降りた櫻井翔”もどき”が、ゆっくりとした足取りで俺が指さす方向に向かって歩を進める。
でも、数歩進んだところでピタリと足が止まってしまう。
そしてキョロキョロと辺りを見回すと、俺の指さした方向とは真逆に向かって歩き出した。
えっ、ちょっと待って…?
「そっちじゃないってば…」
俺は慌ててその腕を掴むと、風呂場のある方に向かって背中を押した。
「あ、あぁ、そうでした…」
脱衣所に何とか押し込み、ドアを閉めると、俺は深いため息を一つ落とした。
やっぱり他人の空似だったんだろうか…?
俺の知ってる”櫻井翔”はあんな人じゃない。
部屋に戻り、着替え用のスウェットとバスタオルを用意した。
それを手に再び風呂場に向かう。
「開けますよ?」
男同士だし、別に構わないと思いながらも、一応声をかけてみる。
…が、返事はない。
「開けますからね?」
もう一度声をかけ、脱衣所のドアをそっと開けた。
脱衣所に響くシャワーの打ち付ける音。
「着替えとタオル、ここに置いときますからね?」
やはり返事はない。
俺は着替えとタオルを洗濯機の上に置き、脱衣所を出ようと一歩足を踏み出す…けど、
「あれ? あの人の着てた服は…?」
脱衣所のどこを探しても、あの穴だらけの薄汚れてくたびれたスーツは見当たらなかった。