桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第3章 K
濡れた髪をタオルで拭きながら部屋に戻ると、櫻井翔“もどき”がベッドの上に身体を起こし、部屋の中を見回していた。
「目、覚めたんですね? 良かったぁ…」
これで俺は殺人犯にならずに済む…
って、そもそも俺轢いてないし!
「ここ…は?」
視線は泳がせたまま、掠れた声で言う。
「俺の部屋です」
「どうして…?」
「覚えてないんですか? あなた急に俺のバイクの前に飛び出してきて、勝手に倒れたんですよ?」
そう、“勝手に”倒れたんだよ、勝手に。
「いや、覚えて…ない」
ああ、そうですか…
ま、それも仕方ないか…
「ところで、俺のこと覚えてますよね?」
……………………………………
「いや、済まない…」
無理ないか…
もうあれから7年? いや、8年も経ってるし、学年も違ったから、唯一の接点と言えば、部活くらいのもんだ。
思い出の片隅にでも残っていれば、なんて思ったのは俺の淡い願望だ。
「そっか、そうですよね? それよか、先シャワー浴びちゃって下さい。そのままじゃ、その…」
きっと何日も風呂に入ってないんだろうな…
申し訳ないが、同じ空間にいるのには、とても耐えられそうもない。
それに、明らかに様子がおかしい。
視点は定まらないし、何かに怯えてるような…
いや、それよりも何よりも今はシャワーだ。
「風呂場、アッチですから」
俺は櫻井翔“もどき”に、指で風呂場を指示した。