桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第14章 SAKURABA
刻まれた文字を一つ一つ確かめながら、細い通路を、何のあてもなく歩く。
場所、ちゃんと聞いとけば良かった。
一瞬後悔した、その時だった。
突然吹いた強い風に、桜の木が揺れ、無数の葉が舞い落ちた。
その葉がまるで道標のようで…
俺は桜の葉に導かれるままに足を進めた。
そして漸く見つけた、遠目からでも分かる一際大きな墓石。
そこには確かに”櫻井”の文字が刻んであって…
俺は今にも駆け出したい衝動に駆られた。
でも、墓石の前に立つ小柄な背中を見た瞬間、俺はその一歩を踏み出すことを躊躇った。
あの人も会いに来てたんだ…
翔さんが一番会いたがってた人…
翔さんが唯一、心から愛した人…
暫くの間、俺はその小さな背中を見つめていた。
その人はじっと墓石の前に立ち、時折顔を上げては墓石を見上げ、手を合わせ続けた。
俺はそこから一歩も動けずにいた。
その少し丸まった背中が、声を上げることなく泣いているように見えたから…
そこだけが、俺が立ち入ることの出来ない、まるで別世界のように見えたから…
帰ろう…
そう思って踵を返した時だった。
「もしかして…、相葉…君?」
透き通るような、それでいて落ち着いた口調の声が俺を呼び留めた。