桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第13章 AIBA
普段はあまり通ることのない川沿いを、車椅子を押して歩く。
時折タイヤが砂利を噛んで重たさを感じるけど、川面を撫でて吹き上げる風がとても澄んでいて…
「風が気持ちいいね?」
堤防沿いに作られた公園のベンチの横に車椅子を停め、俺もベンチに腰を下ろした。
「寒くない?」
膝の上に無気力に放り出された翔さんの手にそっと触れてみると、そこはひんやりと冷たくて…
俺は車椅子のポケットからブランケットを取り出すと、それを翔さんの膝に掛けた。
すると、翔さんが頭を深々と下げて、
「ご親切にありがとうございます」
掠れた声で言った。
たまに口を開いたと思うと吐き出される、他人行儀な言葉…
もう俺の存在すら、そこには無くて…
胸の奥にチクンと何かが刺さるのを感じる。
まただ…
それは最近になって良く現れる症状で、別に体調が悪いとかそんなんじゃない…
ただ胸の奥がチクチクと痛んで、やがてそれは全身にジワジワと広がって行って、息苦しさに押しつぶされそうになる。
やっぱ疲れてんのかな、俺…
吹き付ける風に騒ぎ始めた水面に向かって息を一つ吐き出すと、俺はベンチから腰を上げた。
無言のまま車椅子のロックを外し、アパートの方に向かって車椅子を押し進めた。
その足取りは、まるで鉛でも着いているかのように、酷く重かった。