桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
行きと同じように、何本かの電車を乗り継ぎ、漸くアパートに着いた頃には、すっかり日も落ちていて…
「お腹すいた」
翔さんの口から久しぶりに聞いた言葉に、たまには外食でも、とも思ったけど、見るからに疲れた顔をしている翔さんをこれ以上連れ回す気には、到底なれなくて、アパートの近くのコンビニに入ると、思い思いの弁当と、デザートの類を袋一杯に買い込んだ。
早く弁当の蓋を開けろと言わんばかりに箸を持ってテーブルを叩く翔さんを、なんとか宥めすかしてジャンパーを脱がせると、俺は翔さんの隣に座って、翔さん専用のマグにお茶を注いだ。
「お待たせ。はい、ちゃんと手合わせて?」
俺が両手を合わせると、翔さんも隣で同じように手を合わせる。
「いただきます」
俺が頭を下げれば、翔さんも頭を下げる。
その姿が、まるで子供みたいで…
本当はそんな風に思っちゃいけないんだろうけど、凄く可愛くて…
弁当の唐揚げを口いっぱいに頬張る翔さんの髪をそっと撫でた。
「美味しい?」
その問いかけに応えなんて望んではいない。
ただ大好きな唐揚げを頬張って、幸せそうにしている翔さんがそこにいれば…
こんな穏やかな時間が、ずっと続けば、それだけでいい。
それ以上は望まない…
俺は自分の弁当から唐揚げを一つ箸で摘まむと、それを翔さんの弁当の中にそっと入れた。