桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
全ての書類に記入を済ませ、暫く待っていると、ドアがノックされ、今度は喜多川さんともう一人…おそらく看護師だろうね、女性が揃って相談室に入って来た。
「お待たせしてすみません。書類に記入がお済でしたらお預かりします」
喜多川さんに書類を渡すと、喜多川さんはそれをファイルに仕舞って、頭を下げて部屋を出て行った。
「では、これから病院内をご案内しますね。あ、申し遅れましたが、私は看護師長の高橋です」
胸に付けた名札を指差し、高橋さんはそのふくよかな身体を少しだけ折った。
喜多川さんよりは、随分感じが良さそうな人で、俺は少しだけホッとする。
まあ、あくまで第一印象は、なんだけどね?
「行こうか?」
俺は翔さんの手を引いた。
でも…、
「行かない…。俺、行かない…」
握った手を振り解き、パイプ椅子をなぎ倒す勢いで立ち上がると、そのまま部屋の隅まで後ずさって、膝を抱えて蹲った。
「翔さん…、どうしたの?」
翔さんの前にしゃがみ込み、肩に触れようとした手が、振り払われる。
その目に浮かんでいるは、明らかな拒絶の色で…
分からないだろう、忘れてしまうだろう、って勝手に思い込んでいたのは俺で、翔さんは肌で感じているんだ…
この場所にいることが翔さんにとってどれだけ辛いことなのか…
分かってなかったのは、寧ろ俺の方だ…