桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
「あの、その…」
ここがどういう目的の施設なのか…パンフレットにもちゃんと目を通したし、十分理解しているつもりだった。
でもいざとなると言葉に詰まってしまう。
それに、隣には翔さんがいる。
翔さんには出来ることなら…
やっぱり連れて来るべきじゃなかったのかもしれない…。
俺は今更ながらに後悔した。
「まあ、パンフレットをご覧になったとのことですから? ここがどういった施設かは、大体ご理解頂けてる、ってことにしておきます」
喜多川さんは、さも面倒臭そうに息を吐いて、ファイルの中から何枚かの書類を取り出した。
書類をテーブルの上に並べ、ボールペンを置くと、喜多川さんは胸のポケットからもう一本のボールペンを取り出し、少しだけ身を乗り出した。
「まず、当院に入院するかどうかは別として、あなたのお名前、それから患者様のお名前、後は…この太枠の中を記入して下さい」
それだけを言って、喜多川さんは相談室を出て行った。
俺はテーブルの上の書類を一纏めにすると、翔さんにはなるべく見えない様に、手で隠しながら、喜多川さんに言われた箇所に記入をしていった。
いくら今この瞬間の記憶が、たった数分後には消えてしまうとしても…
仮に、この書類に書いてあることが、全く理解できなかったとしても…
一瞬でも記憶に留めて欲しくなかった。
軽蔑…、されたくなかった…