桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
「あの、先日電話した相葉ですけど…」
インターホン越しに言うと、門の電子ロックが解除され、俺達は漸くその建物の中に入った。
そこは思った以上に古い建物で…
パンフレットで見た様子とは明らかに違っていて…
俺は少しだけ不安が過ぎる。
入口の受付を覗くと、対応に出て来たのは、愛想のない、中年の女性だった。
「どうぞこちらへ…」
そい言って通されたのは、“相談室”とかかれたプレートが貼られた、会議用の長テーブルと、パイプ椅子がいくつか並んだだけの、殺風景な一室だった。
「どうぞ」
と促されて、パイプ椅子に座る。
でも翔さんは、見慣れない光景に戸惑っているようで…
「翔さんも座ろ?」
俺が言うと、漸くパイプ椅子に腰を下ろした。
「私はソーシャルワーカーの喜多川です」
丁度俺の正面に座った女性が、名刺を差し出しながら言った。
医療ソーシャルワーカー…
患者やその家族の方々の抱える問題点を、社会福祉士の立場から解決に導いてくれる人だ、って聞いたことがある。
「こちらへはどういった経緯で?」
「あの、それはその…たまたま友人が持ってきてくれたパンフレットを見て…」
「そうですか。では、ここがどういった施設かは、ご存知ですよね?」
喜多川さんが、黒縁のメガネを指の先で、クイッと持ち上げた。