桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
自宅兼店舗に隣接した駐車場に停めてあった車に乗り込むと、運転手は料金メーターを操作した。
個人、だからなのか…、初乗り料金も少々高めの設定になっている。
車が動き出して暫くすると、赤信号でブレーキをかけ、ルームミラー越しに運転手と目が合った。
そして、
「時代が変わったもんだね…。男同士で手なんか繋いで…。ワシらの時代じゃ、考えられんよ…」
そう言うと、大袈裟に身震いをして見せた。
分かってるよ…。
傍から見たら、普通の関係には見えないことぐらい、分かってる…。
でも、こうしていないと、翔さんが不安になるから…
それに俺も…
「はい、着きましたよ。どうします? このまま待ってましょうか? それだと待ってる間もメーターはどんどん上がってくけどね?」
車が停まったそこは、本当に歩いたって数分もかからない程の場所で…
「帰りは歩いて帰ります」
俺は運転手に向かって丁重に断ると、車を降り、キョロキョロと視線を巡らせている翔さんの手を引いた。
「降りようか?」
「降りる…?」
翔さんの顔に、少しだけ不安の色が浮かんでいる。
「うん、降りるよ?」
それ以上不安にならないよう、笑いかけてやると、翔さんの表情が、徐々に和らいで行くのが分かる。
「ありがとうございました」
運転手に頭を下げ、遠ざかるタクシーを見送ると、俺は周囲を高いフェンスで囲まれた建物のブザーを押した。