桜の葉が舞い散る季節、貴方の傍に居られたら… 【気象系】
第12章 A…
電車を乗り継ぎ、漸く俺達が降り立った駅は、駅員すらいない無人駅で…
改札を抜け、その先に広がっていたのは、なんとも殺風景な街並みだった。
俺は翔さんの手をしっかり握り、駅前にポツンとあった個人タクシーの扉を叩いた。
「あの、ここまでお願いしたいんですけど」
対応に出てきた年配の女性に、予め住所をメモした紙を見せると、奥が自宅になっているんだろうか、”お客さんだよ”と声をかけた。
数分後奥から出てきたのは、タオルを首に巻いて、くたびれたシャツを羽織っただけの、年配の男性だった。
「どこまで?」
「あの、ここまでなんですけど…」
「どれどれ? あぁ、ここなら歩いたってそう大して時間はかからんよ?」
メモを受け取るなり、男性はそう言って俺達を、上から下まで、それこそ舐めるように見た。
きっと、若いんだから…、そう言いたいんだろうと思う。
それに、男同士で手を繋いでるなんて光景、こんな田舎町じゃ、物珍しさしかないだろうし…
でもそんなのは覚悟の上だし、何より今の翔さんの状態を考えたら、たとえ僅かな距離だとしても、想像以上に時間がかかるのは目に見えてる。
「お願いできますか?」
俺が頭を下げると、翔さんもつられたように頭を深く下げた。
「分かったよ。で、帰りはどうすんだい?」
男性はそう言うと、壁にかかった車のキーを手に取ると、くたびれた帽子を被った。