第10章 虚威
「ここまで来て何だけど…」
「入ってもいい訳?」
「何言ってるんですか…わざわざ送って下さった方にお茶も出さずに帰すなんて事出来ませんよ。」
「いや…何て言うか…」
女の部屋に入るなんて、どうって事無いはずなのに。
何言ってんだか…
「現場上がりにお茶してる所なんて見られたら何て言われるか分からないですよ。」
「現場以外で会うことは無いんですから。」
「私、お礼はさっさと済ませたい性格なんです。」
「はい。どうぞ?」
急かされるように、玄関マットに置かれたスリッパ。
「ご近所迷惑ですから。早く入ってください。」
視線までも『早くして』と急かす。
「怖じ気づいてるんですか?」
クスクス笑われると面白くない。
否定の意味を込めて、靴を脱いだ。
白い壁に沢山の写真が飾られた廊下を進む。
「海?」
「あ。はい。前に海外に行ったときに撮ったんですよ。」
「海好きなの?」
「海と言うか水が好きなんです。」
「ふーん。」
「ソファーに座って、待ってて下さい。」
「お茶入れますね。」
そう言って、キッチンに入る日菜乃。
指定されたソファーは、思ったより座り心地が良い。
背もたれに頭を付けて、くつろげば自然と瞼が閉じる。
あー。ヤバい寝そう。
一気に意識が遠のくのを感じた。