第8章 享楽*
シャワーを浴びて気がついた。
「キスマーク?」
鎖骨の少し横に赤い三日月。
襟ぐりの大きく開いたワンピースを着たことを悔やむ。
そっと、三日月をなぞるとさっきの時間を思い出してしまう。
『愛』なんて無い、欲望に任せた行為。
理性なんて捨てて、貪り合うだけ。
無駄な事なんて、何一つ考えない。
だからこそ、あの快楽を得られたんじゃないか。
『またシような?』
この言葉が頭の中をこだまする。
また達央さんと……。
そう思ってしまう自分に苦笑する。
目の前の鏡に映る自分に話し掛けた。
「あなたは、誰が好きなの?」
言い終えてすぐにシャワーを掛けた。
そう。
自分の姿が映らないように…。