第77章 待望
『○月○日○○ホテル』
『17:30』
『部屋番号は、また連絡する。』
ラインに送られたメッセージ。
指定されたのは浅草のホテル。
指定された日は…
この前、指差された花火大会の日。
頬が緩んでしまう。
「嬉しそうだね?良いことでもあった?」
声のする方を振り向けば、ニコニコ笑う信彦さんと視線がぶつかる。
「遊びのお誘い?」
「えっとっ…」
咄嗟に持っていたスマホを伏せる。
「ん?」
「花火に…」
「花火?いいなー。もしかして毎年中継するあの花火大会?」
「詳しくは分からないんですけど。」
「そっか!ボクも連れて行きたいけど当分スケジュール埋まってるから難しいな…」
「そうなんですね…」
「あ!別に気とか遣わないで、せっかくのお誘いなんだから行っておいでよ。」
「え…でも…」
「もしかして、浴衣とか着ちゃうの?」
「いえ…もう何年も着てないですし。着ないですよ。」
「えー。そうなの?日菜乃ちゃんの浴衣見たいな。」
「そもそも浴衣持ってないですよ。」
「そうなの?それは残念。」
「あ。大切なの忘れてた。」
「?」
チュッと触れるようなキスをされる。
「ただいま。」
ニッカリ笑う表情に胸が痛い。
「お帰りなさい。」
私は、どんな顔をしてるんだろう。
見られたくなくて信彦さんの胸に顔を埋めた。