第77章 待望
「鈴木さん!探してたんですよ。」
「見つかって良かったです。」
少し離れた廊下の先から小走りで近寄るスタッフを視界の端で捉えた。
「この前頼まれてたの。何とかしましたよー。」
「はい。お待たせしました。」
差し出された書類。
開いてみると指定した日の某ホテル名が記されていた。
「本当に大変だったんですから…」
汗を拭うような仕草とフーッと息を吐き出す。
「あー。無理言っちゃってすみません。」
「助かりました。ありがとうございます。」
軽く頭を下げて礼を言う。
「それで?彼女と行くんですか?」
何かを探るような視線を感じるけど言う訳ないよ。
いや。言える訳無い…
「ははは。それは秘密ですね。」
視線を外し、渡された書類をポケットに無造作に突っ込みながら空いた手を軽く振る。
「えー。意味深。とにかく、この貸しは大きいですからね!」
不服そうな顔をしながらも、何とか諦めたようだ。
よかったよ。
諦めてくれて。
「近いうちに恩はお返しします。ありがとうございます。」
今度は、さっきより深く頭を下げる。
俺らしくもない。
人に依頼してまで確保するなんて。
廊下を歩いてポケットに入れたものを取り出し眺める。
自然と頬が緩んでしまうんだ。
「タツさん?ニヤケてますよ?」
聞こえる声に一瞬怯むものの、そんな感情すぐに押し込める。
「お。ノブ。」
「おはようございます。良いことでもあったんですか?」
「んー。まぁな。」
「ボクも良いことあるといいんですけど。」
「何かあったのか?」
「最近忙しすぎて、ゆっくり時間取れないんですよね。」
「そうか…。」
「彼女ともなかなか一緒にいられなくて…」
「上手く行かないときは、行かないんですよねー。」
「はぁ…困ったもんです。」
「………。」
「あ。別にケンカとかしてる訳じゃないですよ。」
「これもお揃いですから。」
指に着けたリングを見せられた。
「…………一緒にいられる時間を大切にしろよ。」
「そうですよね。ありがとうございます。」
人懐っこい表情で笑うノブを裏切っている。
アイツだって辛いんだよな。
コレだって無駄になるかもしれない。
いや。
本来ならば無駄にしなければいけないんだ…
もう一度を眺めて今度はバックに無造作に押し込んだ。