第77章 待望
「ヒナ?」
座る私の後ろに回ると、そっと抱き締められた。
耳…頬…首筋にキスを落とされる。
「くすぐったいっ」
肩をすくめても啄むようなキスは続く。
「んー?聞こえないな。」
耳たぶを甘噛みされると、ゾクゾクしてしまう。
「鳥肌立ってる。」
クスクス笑いながら私の腕を擦る達央さん。
「達央さん……」
今日こそ言わないと。
そう思うのに今日も言おうとすると言葉が出ない。
「あの…」
撫でた指を私の指に絡めて、そっと唇に寄せる。
「ヒナ?」
唇で優しく啄みながら息を吸い込む。
「なぁ?どこか行きたいとこでもある?」
「え?」
咄嗟に振り向けば指を指す。
「それ取って。」
先にあるテーブルに置かれた旅行雑誌。
体を屈めて腕を伸ばし雑誌を引き寄せ手元へ。
「花火?海?」
表紙には海と花火の写真に、花火大会の名前が所狭しに記載されている。
「どうした?気になるとこあった?」
数ページ捲っても全く頭に入ってこない。
「えっと…特には…」
と、言いながらも視線は一カ所に釘付け。
「はぁ…お前な…」
「本当にバレバレ。」
「言えよ。」
耳の縁を舐められれば肩が竦んでしまう。
「やめて…っ」
「言えばやめるよ。」
舌が縁から内に滑り出す。
「っ……!」
「花火…っ…観てないなって思って。」
「それだけです。」
体を引いて前屈みに。
「そもそも人混み苦手なので、テレビで観るのが定番です。」
「冷房効かせるので快適ですよ。」
クスクス笑うと再び引き寄せられる。
そして、抱きしめられた腕に力がこもった。
「達央さん?」
「………こうか。」
「え?」
「花火大会行こうか。」
「へ?」
「あはは。色気の無ぇ返事だな。」
「え…だって」
「俺と行くのは嫌?」
「そんな事は…」
「やっぱりノブがいい?」
「……違っ」
「ごめん。今の無し。ただの意地悪。」
そう言うと首筋に顔を埋めて大きく息を吸う。
「とりあえずコレが候補。」
「考えといて。」
「無理にとは言わないからさ。」
指差されたのは、都内の大きな花火大会。
行けたら…
今度こそ最後にするから…
そう思ってしまう自分は本当に卑怯で。
私は何も変わらない。
立ち止まるどころか引き返してばかり。