第75章 斜眼
「気になる?」
「え?」
「さっきから、ボクのこっち側に視線を感じるから。」
繋いだ手と別の手に持つショップバック。
「さっき買ったリングを入れるケースが入ってるだけだよ。」
はははっと笑えば恥ずかしそうに視線を逸らす。
「ね?もう少し散歩してから帰らない?」
「もちろんいいですよ。」
時間は大分遅いけど。
それでも、こうして並んで歩けるのはこの時間だからこそ。
「じゃあ、少し遠回りして車に戻ろう。」
「はい!」
元気な声を聞くと、日菜乃ちゃんと出逢った頃を思い出す。
「日菜乃ちゃんはさ。」
「ボクに幻滅したりしない?」
「え?どうしたんですか?」
「んー。頼りないし。子供っぽいし。」
「全然男としての魅力が足りないんだなーって。」
「自分に自信なんて持てないし。」
「どうしたんですか?急に…」
「ん?何となく。特に意味は無いんだけどね。」
「………」
「あー!やっぱり今の無し!」
「本当にこういう所ダメだよね。」
「ごめん。忘れて。」
「………」
「信彦さん。」
「ん?」
「信彦さんは、頼りになりますし。」
「私みたいな子供と付き合ってくれるなんて。」
「本当に夢のようなんです。」
「私こそ。信彦さんの隣にいるのがおこがましいって。」
「そう思います。」
困ったように眉を寄せて、小さく聞こえるため息。
「はぁ…ボクたちさ。」
「こんなに似てたかな?」
「2人揃ってマイナスな事言って。」
「せっかく2人で出掛けてるのに。」
「ボクはさ。いつか日菜乃ちゃんが…」
見えない先のその先。
遠くにある光はいつかはっきり見えるのかな。
それともパッと消えたりしてね。
「うぅん。やっぱり何でも無い。」
「言霊って言うし。」
「今のも忘れて。」
誤魔化すように笑い小さくため息をついた。