第74章 逡巡
「信彦さん?」
驚いた表情を見せる日菜乃ちゃん。
「え?」
「今…」
「え?どうかした?」
「えっと…さっき…よく聞こえなくて…」
「あー。ここにはもう無いけど、都内なら何店舗かあるから。」
「そんなに気に入ってくれてたんだね。」
「知らなかったよ。」
「今度の休みに一緒に行こうか?」
「日にちの確約は出来ないけど。」
「あ…はい。大丈夫です。欲しいリングがあるんです。」
「リング?」
「あ!変な意味じゃなくて、ミルククラウンのデザインのリングがあるじゃないですか?」
「あれが欲しいなって、思ってて。」
人差し指で王冠を描くように宙をなぞる。
「あー。あれね。ボクも欲しいと思ってたんだ!お揃いにしようか。」
笑顔を向ければ、安心したように笑ってくれた。
……ようやく言えたのに……。
ここまで来るのにどれだけ時間がかかったと思ってるの?
とぼける言葉は考えなくてもすぐに出るんだから…
頭にこだまする声に首を横に振る。
そう。
はぐらかすのも得意になったみたい。
結局、何も変わらない。
ぶつかる視線から逃れるように視線をそらす。
お揃いのリングだって。
贈っても受け取ってくれるかも分からないのにね。