第8章 享楽*
「おい。水澤。」
明らかに不機嫌な声。
このままやり過ごす事なんて出来ない…
諦めてキッと睨みながら、振り返る。
「達央さん…」
「何だよ?俺の顔みて、この部屋に入っただろう?」
「そんなことないですよ。」
「俺が前から来るの分かってて、ここに来ただろ?」
「達央さんだなんて、知りませんでしたよ!」
「ふーん?」
ニヤニヤしながら、何かを探ろうとする視線。
「お前さ。今、すっごい不細工な顔してるよ。」
「普段はニッコニコしてるくせに、スイッチ切れるとヒドいな?」
「………。」
『スイッチ』
前から気付いてた。
達央さんは、私の演技に気付いてる。
だから、必要以上に関わらないようにしてたのに。
「お前さ。甘いんだよね。」
「詰めが甘い。」
「そんなんじゃ、すぐバレるよ。」
わざと顔を覗き込んでニッコリ笑う。
そして、頬に手を触れる。
頬に感じる少し硬い指の感触。
反射的にその手を払った。