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逢ふことの(裏)~声優さんと一緒~

第73章 夢幻


着替えを済ませ、メイクも完璧。

最後にGIVENCHYの香水を空中に噴射し、その中をくぐる。

ほのかに香る程身にまとわせ、リビングに戻っても信彦さんはまだ出てこない。

ソファーに座り、テーブルに置かれたリモコンでテレビの電源を入れる。

チャンネルを何度か変えると懐かしい風景が映し出された。

広い大地に澄んだ空。

もうどれくらい帰ってないんだろう。

大学進学の為に上京。

声の仕事に興味を持って養成所に入所した。

ツラいことばかりで何度も心が折れそうだったけど。

やっとここまで来られた。

チャンネルを変えようとリモコンに手を伸ばせば…

「良いところだね。」

着替えも済ませ、髪も乾いた信彦さんがソファーの背もたれから身を乗り出して私に声を掛ける。

「こう言う所にも行ってみたいよね?」

「良いところですよ。自然が多くて、食べ物も美味しい。」

「そうなの?行ったことあるの?」

「………」

「どうかした?」

「えっと…」

「ん?」

「出身がここなんです。」

「え?」

「公表はしてませんけどね。」

「そうなの??」

「嘘ついてどうするんですか。」

苦笑しながら信彦さんを見つめれば、映る画面をじっと見つめる。

「いつか…いつか…日菜乃ちゃんの育った町に行きたいな。」

「自然と綺麗な空気と夜空。」

「それくらいしかありませんけどね。」

「十分だよ。いつか……」

「さて。そろそろ出掛けようか?」

体を翻し、振り向きざまに手を差し出される。

「お手をどうぞ?」

得意気に台詞を言うようで。

まるで王子様。

その手を取る私はヒロインになれるのかな?
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