第73章 夢幻
「結局、信彦さん大して汗かかなかったですね?」
「1時間くらい外にいたのに…」
「私なんて…この有様。」
首を流れる汗。
いくら拭いても止めどない。
「代謝がいいんだよ。羨ましい。」
「シャワー浴びて来てもいいですか?」
「さすがにこれでは出掛けられないですし。」
「ちょっと待ってて貰えますか?」
「ボクも一緒に入ろうかな-?」
「ダメです。」
「えぇー。それは残念。」
半分笑いながら手を振る信彦さん。
「早く帰ってきてね。」
私が被っていたキャップを人差し指でクルクルとまわしながらカーテンを開く。
今度はキャップを被るとベランダに続くドアを開き外へ。
その後ろ姿を横目に私は廊下へ続くドアへ手を掛けた。
後ろから微かに聞こえる鼻歌。
振り返るとキャップを被ったままベランダの手すりに寄りかかり、外を眺める姿。
これが幸せなんだと思う………
そう。これが…幸せ。