第72章 仮寓
肩を落としながら帰る後ろ姿を見送る。
「もっと優しくしてあげればいいのに。」
隣にいる良平に声を掛けるとノブから視線を外さずに答える。
「ガキじゃないんだから。…逃げても解決しない。それくらい分かるよな?」
「まぁ、そうなんだけど。」
何か聞いて欲しそうな感じであるから、尚更可哀想。
「自分から言わないんだから、自分で何とかするでしょ。」
「頼りたい時に頼れる。そんな関係でいいんじゃないかな?」
表情から察しても、本当は良平もノブが悩んでるのは分かってる。
分かった上での対応なんだろう。
「うん。そうだね。」
「ねぇ?何の話?」
業を煮やして、蚊帳の外の江口くんが会話に入ってくる。
「大人の話。」
ピシャリと一言で終わりにする良平に失礼ながらも笑ってしまう。
「えー。いつもオレばっか置いてけぼり。」
「寝てたのが悪い。」
「えー…」
「今は分からなくても、ノブが助けを必要としたら助けられるだろ?」
「もちろん!」
姿勢を正し、自信たっぷりに返事をする江口くん。
「よし。それなら、その時は善処するように!」
「えー。結局それか…」
「さー。そろそろ俺たちも帰ろう。」
一歩前に進んでクルリと振り返る。
「そうだ。君たち何か忘れてないかな?」
両腕を腰に当て、耳をこちらに向けた。
「「あ。ご馳走さまでした!」」
「はい。よろしい。」
ニッコリ笑って見える八重歯。
この笑顔に沢山のコが鷲づかみにされてるんだな。
本当に罪作りなんだから。
「ねぇ?良平は好きな子いないの?」
「教えてやんない。」