第72章 仮寓
「何でまだいるの?」
「良平さん…いいじゃないですか…いても。」
机に突っ伏せば、ヒンヤリと冷たくて硬いテーブルの感触。
何人かで飲んでたはずなのに、今は良平さんと代永さんと寝てる江口くん。
いつの間にかこんな少人数に。
「最近付き合い良すぎるよな?」
「たまにはいいんじゃないかな。」
助け船のように会話を挟んでくれる代永さん。
「いやいや。たまにじゃ無いだろ。ついこの間も最後までいたし。」
「たまたま続いただけだよ。」
「感づいてるくせに誤魔化すなよ。何かがあったのは明らかだろう。」
「…あはは……痛いとこ、つきますよね?」
チラリと片目を覗かせると、どんどん量が減るジョッキの中身。
「んー。美味いね。ノブの場合は、今何を飲んでも美味しく感じないと思うよ。」
「そんなことないですよ!」
反論の如く手を軽く上げ、店員さんを呼ぼうとすると止められた。
「だーめ。酒に失礼だし。そもそもそんな飲み方は体にも良くない。」
「っと言うことで、大人しく帰りなさい。」
「えー。イヤです。」
「イヤじゃない。ほらほらお前達も今日は帰るぞー。」
「…だそうだよ?」
眉を八の字に寄せて肩をすくめて席を立つ代永さん。
「今日はここまでだね。」
「えー…帰りたくないです。」
「女子かよ!」
「え?」
「お前が反応するなよ!」
「あはは。ごめんごめん。」
「ほら。ここは、オレが出すから。言うこと聞くように。」
ヒラヒラと指先に伝票を摘まんでなびかせる。
「ノブ?聞いて欲しければいつでも聞くよ。」
「だから、あんまり根を詰めるなよな?」