第7章 当惑
「また連れてって下さいね!」
「楽しみにしています!」
再び逸らされる視線に焦る。
会わなかった数日間に何かあった?
キラフェス?
ライブには、興味無さそうな月島さんが行くとは思えない。
それとも…
私…何かした?
「パンケーキって?」
声が掛かり、現実に引き戻される。
手にギュッと力を込め、悟られないように息を吸い込む。
「この前、岡本さんと表参道のパンケーキ屋さんに行ったんです。」
透き通るような凛とする笑顔で私を見つめる瞳。
「沢山フルーツが乗ってて、美味しいのよね?」
初めて向けられる笑顔に後ずさりしそうになる。
でも。
引き下がる訳には行かないの。
「そうなんです!月島さんも行ったことあります?」
顔を少し傾けて、私も笑顔で答える。
「うん。よく行くよ~。」
「っと言うか、ノブくんにそのお店教えたの私だし。」
敵意を感じる視線に私の中に何かが燻る。
「あー。岡本さんが言ってた『先輩』って月島さんだったんですね?」
好きな人を『先輩』なんて言わない。
好きな人に聞いたお店に『別のコ』を連れて行く訳ない。
大丈夫。
月島さんじゃない。
「そうよ。」
大丈夫。
月島さんじゃない。
「じゃあ、またお勧めのお店教えてくださいよ?」
「岡本さんと行くので。」
岡本さんに、もし別に好きな人がいても構わない。
月島さんだけは…
月島さんにだけは……
「そうね。新しいとこ見つけたらね。」
冷たい視線が私を包む。
それでも私は逸らさない。
「はい♪楽しみにしていますね。」
逸らされる視線。
自分の背中を伝う汗。
緊張していた時間が終わる。
小さくなる背中。
その背中を見つめて、大きくため息をついた。
そして、岡本さんに視線を向けて今度は息を吸い込む。
月島さんの背中を追いかける視線。
岡本さんも、その視線であの人を追いかけるの?
「岡本さん?」
たぐり寄せるように声を掛ける。
「あ”?」
今まで聞いたことの無い声に体が跳ねる。
「悪いけど、話し掛けないでくれるかな?」
向けられた笑顔には、今までの陽だまりのような暖かさはない。
遠ざかる背中。
その背中が見えなくなるまで私は立ちすくんだ。