第70章 起臥
片腕に感じる重みと熱。
寝ぼけ眼で、その方向に視線を向ける。
「日菜乃ちゃん?」
さっき、ベッドに運んだはずなんだけど…
何でここにいるの?
ボクの腕に抱きついて眠るキミを見て、呆れながらも微笑んでしまう。
掛けられたブランケットは、日菜乃ちゃんが用意してくれたんだよね。
キミの優しさが、すごく嬉しい。
こうして寝てるキミの行動が、とても愛おしい。
ここのところ、ずっと胸の奥でモヤが色を濃くするんだ。
疑う必要なんて無いと思いたい。
だって。
ここにいるんだから。
そう。
渡すつもりなんて微塵も無いよ。
疑惑が輪郭を見せ始めたあの日から、ボクは何も行動出来てない。
自分から仕掛けておいて…
何やってるんだか。
自分でセッティングして、自分で悩んで。
世話無いよ。
受け止める覚悟もないなら、やらなければ良かった。
問いただすなんて出来ないくせに…
中途半端な事なんてしなければ良かった。
そう。
この手をすり抜けるのが怖いから物わかりのいいフリをしているだけ。