第69章 同朋
「あれ?」
「こんばんは。」
「ユキ?珍しい人が来たよ。」
「え?」
振り向いた懐かしい顔に自然と笑顔になる。
「日菜乃!いらっしゃい。久しぶりね。」
カウンターの定位置座れば、安心する。
「どうしてた?元気?」
「うん。元気だよー。」
「なら、良かった。仕事も順調?」
「うん。今は、ナレーションをメインにね。」
「慣れない環境だけど、こうして仕事が出来ることに感謝しないと。」
「うんうん。今日は、ゆっくり出来るんでしょう?」
「そのつもり。」
「…と言うか……一人になりたくないの…」
「ん?」
ボソッと呟いたあの声は聞こえなかったかもしれない。
「うぅん。何でもない。」
首を振って、気落ちする気分を振り払う。
「さて。今日はどうする?」
「Nikolaschka」
「バカ言わないで…」
「そんなに強いの飲みたい理由でも?」
「まぁ。色々とね。」
そんな会話を横目に巧くんが、スッと差し出すグラス。
視線を落とせば、ロンググラスにレモンの皮が螺旋を描き美しい黄色が目を引く。
「horse the neck?」
「Nikolaschkaは本日はお預けのようなので。」
「こちらをどうぞ。」
「ありがとう。」
口をつけると広がる香り。
「んー。美味しい。ブランデーで作ってくれたの?」
「そうだよ。Nikolaschkaを希望する日菜乃ちゃんの為にね。」
「ありがとう。」
私の言葉を聞き終えるとスマートにその場を去る。
こう言う行動がすごく心地よい。
「さて。その後、岡本さんとは上手く行ってる?」
茶化すように私に問いかけるユキ。
これから話す事で、どれだけ呆れられるか…
不安しかないけど。
それでも聞いてほしい。
「あのね。」