第68章 愛憐
電気の付いたリビング。
扉のガラス越しに光が漏れる。
そっと開けて、小さな声で言ってみる。
「ただいま。」
返ってくる声は無くて。
先に寝ててとは言ったものの、少し期待してた自分が情けない。
ふと、キッチンに視線を変えれば机に突っ伏し眠る日菜乃ちゃん。
「風邪引いちゃうよ。」
そんなことを言いながら、頬は緩んでる。
ボクって本当に単純。
「おーい。起きてー。」
頬を指先でつまむと気持ちのいい弾力。
「チューしちゃうぞー。」
そんなことを言っても無反応。
「じゃあ、遠慮なく。」
顔に掛かる髪を耳に掛け、頬に口づけた。
それでも起きないボクのお姫さま。
アルコールに匂い。
ライム?レモン?の香りが鼻腔をくすぐる。
誰と飲んでたの?
……なんて野暮なことは聞かないからさ。
ねぇ?お話しようよ。
体を揺すっても、髪をワシャワシャに撫でてもダメ。
飲みすぎた?
それとも、疲れてるのかな。
仕事だったのか、出かけたのかすら知らないけど…
眠りから覚めない日菜乃ちゃんを抱え、ベッドルームへ。
軽い体に、ちゃんと食べてるのか心配になる。
忙しくて一緒にいられる時間が少ないのが残念だけど。
この仕事をしている上では逆に言えば有難いこと。
もっと沢山経験を積んで、頼りになれる男にならないと。
ベッドに下ろした日菜乃ちゃんに布団を掛ける。
「ずっと一緒にいようね。」
ポンポンっと軽く布団を叩き、ベッドルームを出る。
「さて。台本チェックにブログも更新しないとなー。」
台本を机の上に置き、ソファーに座りブログを立ち上げる。
「さて。何を書こう。」
ふと、視線をずらせばチョコレート。
「よし。チョコ話でもしよー。」
文字を打ち込みながら、チョコレートを口に放り込んだ。
「やっぱり疲れてるときにはチョコレートだよね。」