第66章 明星
仕事の準備を終え、寝室に戻っても日菜乃ちゃんは眠りについたまま。
「日菜乃ちゃん?」
「今日は仕事じゃないの?」
「ボクは、そろそろ出掛けるよ?」
何度声を掛けても眠りから覚めてくれない。
さすがに仕事がある日にアラームもかけずに寝るはずもないし。
そう言い聞かせ、そっと額に口づける。
「行ってきます。」
返事は返ってこないけど、こうして『行ってきます』が言える現実に胸をなで下ろす。
「今は、ボクの元にいるんだから。」
「それで十分でしょ。」
言い聞かせるみたいで情けないけど。
寝室の扉を閉め、リビングを抜け玄関へ続く廊下を歩く。
玄関に置かれたパンプス。
ひと目見ただけで、安価な物では無いことが分かる。
ヒールも結構減ってるって事は、気に入ってるのかな?
ボクが買ったものじゃないのが寂しいけど。
こう言うデザインが好きなんだ。
仕事の主軸も変わったし。
軌道に乗ってるといいんだけど。
久々に一緒にいられた時間なのに。
求めてしまった。
話しを聞こうって、話をしようってあの時決めたのに。
本当に情けないよ。
これじゃあ、学生レベルだよね。