第66章 明星
頬に触れる柔らかな感触。
覗き見るように、そっと瞼を開ける。
長い睫毛が私の肌を擽った。
「ははは…こんな早朝からしないよ?」
「安心してよ。」
「ちょっと意地悪しただけ。」
なだめるような優しい声にホッとするような…残念なような…複雑な心境。
「ん?もしかして期待してた?」
「信彦さん…意地悪です。」
「ごめんごめん。」
「好きな子は、虐めたくなるんだ。」
「男の性(サガ)ってやつかな?」
包み込む腕は逞しくて。
でも優しくて。
胸の奥が苦しくなるの。
グルッと体の向きを変え、信彦さんの胸に顔を埋める。
「どうしたの?」
「何でもないです…。もう少しこうしていたいんです。」
ポンポンっと、優しく頭を撫でてくれる。
「好きなだけここにいればいいよ。」
「収録あるから、ずっとって訳にはいかないけど。」
「ありがとうございます。」
瞼を閉じれば、すぐに微睡みが訪れる。
少しだけでいい。
現実から目を背けさせて。
分かっているのに何も変わらない。
裏切ってばかりの私自身から。