第63章 披瀝*
瞼を開けれても暗がりで視界は開けない。
隣からは規則正しく聞こえる寝息。
鼻腔をくすぐる香り。
そっと近づき瞼を閉じて、ゆっくりと息を吸い込み肺を満たせば少し前の情事を思い出してしまう。
無意識に寄る眉に今度はゆっくりと吐き出し、気持ちを切り替える。
腕の中からすり抜け見えない視界の中、達央さんがいるであろう場所を眺める。
「帰らなくちゃ…」
足に触れた服を拾い集めて身につけ、そっと髪に触れた。
「達央さん…帰りますね。」
「………」
起こさないように扉を閉める。
ここからは、私が帰るべき場所へ。