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逢ふことの(裏)~声優さんと一緒~

第62章 衷心


夜風が気持ちいい。

店から出て歩き始めると足下が少しふらつく。

「酔ってる?」

「そんなこと無いですよ。」

「いやいや。思いっきりふらついてるけど。」

「最近飲んでなかったので、弱くなったのかもしれないですね。」

笑って見せてもすぐに目線は逸らされた。

「疲れてるんだよ。」

「達央さんみたいに沢山お仕事してないですよ。」

「ノブ程じゃねぇーよ。」

「………」

その名は私を引き戻す。

帰らなきゃ…

でも…

「達央さん…一つだけお願いがあるんです。」

「酔いが覚めるまで一緒にいてくれませんか?」

少しだけで良い。

「……」

沈黙の時間が胸を締め付ける。

「そこの公園で…ダメですか?」

「ヒナがそうしたいなら。」

肩を抱かれれば、意識は触れる箇所に集中する。

誘導されるまま歩みを進めれば、所々に寄り添う2人が醸し出す甘い雰囲気。

毒気に当てられたよう。

その横をすり抜ける。

少し進めばポツリと取り残されたように佇むベンチ。

そこを指差し軽く背中を押された。

「ほら。座れ。」

「飲み物いるか?」

気に掛けてくれるだけで十分。

「大丈夫です。」

「遠慮するなよ。」

それなら…一時で良い。

「えっと…頭痛くて…肩かして頂けますか?」

「好きにしろ。」

肩に頭をつければ、鼻孔を擽る懐かしい香り。

「達央さんの匂いがする。」

瞼を閉じてその香りで肺を満たす。

それだけで鼓動は早くなる。

「ヒナは香水変えてないんだな。」

暗い視界の中、心地良い声が響く。

「変えてないですよ。この香りが好きなんです。」

「どこの?」

「GIVENCHY」

「ふぅん………なぁ?」

「はい?」

「もっと近くで」

そう言うと同時に体を離され、耳元に聞こえる呼吸音。

「甘い香りがする。」

「でも。もっと強い香りを知ってる。」

「どうすれば、香りが強くなるのかも。」

首筋に触れる指。

軽く開けた唇。

重い瞼は、ただの言い訳。

木々が茂るこの場所は街灯の灯りもほぼ届かない。

重なる唇に首、胸、腰と撫でる指先。

首に手を掛け私もアナタを求めるの。

「っ…甘い…」

「もっと…」 

「んっ」

どんどん深くなる口づけに頭の芯がぼうっとする。

「ヒナ…」

「今夜だけ…」
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