第62章 衷心
笑っていても瞳の奥には別の何かが燻ってる。
アナタが私を必要としてる?
アナタが私を求めてくれる?
そんな訳無いじゃない。
「冗談は止めてくださいよ。真剣に話してるのに」
視線を落として、唇を噛む。
「…………」
「いつもはこんなこと言わない。」
「でも、今日はヒナがちゃんと話してくれてるから。」
「オレも真剣に話そうって思ったんだよ。」
「でも……ヒナがそう思いたいなら、それで構わない。」
見つめる瞳は冷たい色を濃くする。
胸が締め付けられるよう。
耐えられなくなって視線を落とす。
また……
いつまで経っても逃げてばかり。
「さて。話戻そうか。」
若干上がるトーンに救われた気分になる。
チラリと視線を上げれば、天井を見上げてゆっくり息を吐く達央さん。
「ナレーションね…」
「一人でやることになるから、精神面でキツい部分もあるからな?」
「はい。それは、分かってます。」
「人と話すことだって、アフレコと比べたら格段に減るからな?」
「はい。分かってます。」
「一度の拘束時間は長くても、その分自由な時間が増えるんです。」
「色々考えた結果なんです。」
「……そうか。やっぱり結論は既に出てるんだろ?」
「……はい…。」
「それなら、ヒナの好きにしろよ。」
「お前の道なんだから、思った通りに…信じる道を歩け。」
「はい。頑張ります。皆と疎遠になっちゃうのがツラいですけど。」
「なぁ?その中にオレは入ってる?」
「何、言ってるんですか…」
「寂しくなったら、いつでも言えよ?」
「もう達央さんには甘えられないですよ。」
「甘やかさないで下さい。」
「甘やかしたいんだけど。」
「もう…達央さんは、私の心が読めるんですか?」
「あはは。まぁな。」
「それなら、違うコトバを下さい。」
「んー。………絶対言ってやんない。」
「最後の最後までイヤな先輩なんですね。」
「『最後』なんて言うなよ…」
視線を上げれば見たことも無いような縋るような視線。
「やめてください…達央さんにそんな顔は似合わないですよ。」
誤魔化すように言ってみても、そんなのその場しのぎにさえならない。