第6章 請願
姿勢を正し、画面に呼び出した電話帳から目的の人を探し出す。
大きく息を吸い込めば、思ったより長いため息が出た。
気持ちの表れ…
考えただけで気持ちが落ちる。
でも早くお伝えしないと…。
心に決め、発信をタップした。
「もしもし?水澤です。」
「今、大丈夫ですか?」
「この前、お願いしたキラフェスの件なんですけど…」
「代永さんが仰った通り、やはり許しが出ませんでした。」
「お騒がせしてしまい、本当に申し訳ありません。」
「はい。ありがとうございます。」
「では、またスタジオで。宜しくお願いします。」
画面をなぞり、電話を切る。
ふと顔を上げれば、事務所の壁に飾られたカレンダー。
6月初めの土日。
眺めるだけでため息が出る。
「行きたかったな。」
傍にあった机に突っ伏し、ウーウー唸る。
すると、肩をポンポンっと叩かれた。
「日菜乃?どうしたの?」
よどんだ空気がスッと消えるような。
優しい柔らかい声。
顔を上げなくても、分かります。
だって。
私の大好きな人だから。