第6章 請願
透き通るような優しい声。
ガバッと身体を起こし、振り返る。
「能登さん!お疲れさまです!」
「お疲れさま。何だか唸ってたみたい…。」
「えっ…聞こえてましたっ?」
「しっかりね。」
透き通るような笑顔に、魅入ってしまう。
「ちょっと行きたい所があったんですけど…」
「森本さんの許しが出ませんでした。」
「そう…」
私以上に残念そうな表情。
「多分ダメだと思ってたので、お気になさらずに!」
「大丈夫ですから!」
今度は優しく背中を撫でられ、優しく微笑んでくれる。
「たまには、自分を出しても良いんじゃないかしら?」
「演じすぎて、本当の自分を見失わないようにね。」
「程々に頑張りなさい。」
手を振って、ドアを開ける能登さんを見送る。
「ありがとうございます。」
いつも綺麗で優しくて。
憧れの先輩。
能登麻美子さん。
事務所に入って、悩んでいたときに救ってくれた人。
私みたいな新入りにも今でも優しく声を掛けてくれる。
私もいつか能登さんみたいに、周りを気遣える人になりたい。
今の私の状態では何年後になるか分からないけど……。