第61章 御伽
「日菜乃ちゃん。これが似合うんじゃないかな?」
手のひらに乗せた可愛いネックレス。
「この店舗でしか買えないんですよね?」
「はい。そうなんですよ。期間数量限定です!」
店員さんが、ニッコリ笑って対応してくれる。
「ボクが付けてあげるね。」
そう言って、背後に回りネックレスを付けてくれた。
鏡に映る岡本さんと目が合って恥ずかしさに視線を逸らす。
「何で逸らすの?ボク傷つくよ…」
シュンとする表情に思わず笑ってしまう。
「すみません。恥ずかしくって…」
「もう…止めてよ。抱き締めたくなっちゃうから。」
「あ。そうだ。これも可愛いね。」
少し離れた棚にあるチョコのデザインのポーチ。
「あ。これも。」
ジュエリーケースの上に掛けられたプチケーキをデザインしたストラップ。
ショートケーキにチョコケーキ、ベリーがのったタルト。
「このチョコケーキ可愛いね。日菜乃ちゃんもお揃いで付けてね。」
私に笑いかけると、岡本さんは店員さんに何かを言って支払いを済ませる。
「あ。ネックレス…!」
「ん?そのまま付けて行くって、店員さんに言ったから大丈夫だよ。」
「はい。プレゼント。」
「ポーチとストラップとミラーが入ってるよ。」
ショップバックを目の前に出されると戸惑ってしまう。
「でも荷物はボクが持つから、家に帰ったら渡すね。」
「ありがとうございます。」
得意気に鼻を鳴らす岡本さんが可愛い。
「ね?岡本さんじゃない?」
「えー。まさか週末にこのお店には来ないでしょ?」
背後から聞こえる声に一気に汗が滲む。
私の存在が岡本さんの負担になるのだけは避けたい。
主役も張れる岡本さんに迷惑なんて掛けられない。
………これじゃ、何も変わらない。
それくらい分かってるけど。
でも、これが私に出来る最善策。
岡本さんから離れるべく、一歩踏み出した。