第60章 還御
玄関に散らばったガラスの破片を指先でつまむ。
「痛っ…」
ポタポタと鮮血がフローリングに落ちた。
「指先って結構血がでるんだ…。」
指先を見つめると絶え間なく流れ続ける。
「止まらないなー…」
「……っ……ぅっ」
情けなくて…最低で…
「っ…っ…」
溢れる涙を腕で拭う。
「何で止まらないんだよ!」
ドンッと横の壁を叩く。
泣くくらいならやらなければ良かったのに。
後悔したってもう遅い。
嫌われたかもしれない。
当たり前の事をしたんだから…と思うのに目を逸らしてしまう。
自分の行為に向き合う覚悟も無いくせに。
それなら逃げる?
何も知らないフリ?
得意だよね。
気になっても聞けない。
気付かれないようにするのは得意。
そう思えば気持も軽くなる。
瞼を閉じて、ゆっくりと息を吐き出した。
日菜乃ちゃんは、ここにいるんだから。
「そうだ。」
「元に戻っただけ。」
「日常が戻っただけなんだ。」
床に散らばったガラスを再度集めて、掃除機を掛ける。
「綺麗になった。」
「これで元通り。」
これで元に戻ったんだ。