第56章 把持
「あの…」
「すみません!」
足を速めても掛けられる声は止まらないようだ。
「えっと…」
「すみませんっ…岡本さんですか?」
さすがに名前を呼ばれて無視なんて出来ないよね…
諦め歩みを止める。
制服を着た高校生二人が肩で息をしながらボクを見つめてる。
手を引き寄せ日菜乃ちゃんを背後へ。
顔が分からないように、手に持った大きめのショップバックを肩に掛けて顔を隠す。
「あのっ」
「アニメ観てます!応援してます!」
「この前のイベントも行きました!」
顔は紅潮してて。
本当に嬉しそう。
声を掛けるのも勇気いるよね。
ニッコリ笑って二人を見つめる。
「ありがとう。」
次第に視線はボクの背後へ向けられてる。
好奇心旺盛だよね。
ボクだけで満足してよ…。
二人の視界を遮るように一歩横にずれて立ちはだかる。
「SNSで拡散しないでね?」
人差し指を立てて「シーッ」と息を吐く。
「ボクとキミの約束。」
自分と二人を交互に指差し視線を合わせる。
「信じてるから。」
また微笑んで、軽く手を振る。
それと同時に体の向きを変えて日菜乃ちゃんの背中を押し斜め前を歩かせる。
その後ろをボクも続く。
後ろから黄色い声が聞こえるけど、気にしない。
別に広がっても構わないよ。
そうすれば誰も手を出さないでしょ?