第55章 冀望
「日菜乃ちゃ~ん。おはよー。」
突然開く扉から唯ちゃん登場。
「ちょぉ!!!ノック!!!」
着替え途中の楽屋。
ワンピースの背中は全開…
「あー。ごめんごめん…って!」
「そっ…それっ…!」
「へ?」
「もぅ……」
私の背後に回りファスナーを上げてくれる。
「すんごいキスマークの嵐…」
「同居人様…意外にスゴいんだね…驚いちゃった。」
「………そんなにヒドイ?」
「うん……すごい……消えるまで気を付けた方が良いよ。」
「あ…ありがとう。」
「まぁ。上手く行ってるみたいで良かったよ。」
ポンッと軽く背中を叩かれる。
「うん。ありがとう。」
「今日はよろしくね。」
「こちらこそ、宜しくね。」
今日は出演アニメのトークイベント。
久々に唯ちゃんと一緒のイベントだからずっと楽しみだった。
最近は、イベントのお仕事は多くない。
事務所からもナレーションの方にシフトチェンジしようかとの打診もある。
私自身、イベントは相変わらず苦手で。
こうしてイベントに出るのも、あと数える程かもしれない。
少しでも与えられたこの時間を楽しみつつ、少しでも多くの方の記憶に残りたいって思う。
岡本さんは、今日は地方でイベント。
もっとイベントの事とか聞いておけばよかったと悔やんでしまう。
殆ど毎週のように参加してる岡本さん。
それだけ沢山のオファーがある岡本さんは、やっぱり人気な人なんだと実感するの。
そんな人の隣にいるのが嘘みたい。
数年前の私からしたら、信じられない事。
もっと自分の置かれた立場を見据えて前を向かなければならないと…
そう自分に言い聞かせた。