第5章 翻然
日が少し落ちて所々街頭がつき始める歩道を歩く。
慣れない高いヒールで靴擦れを起こしてるのかも。
それに男性の歩幅は広いから、なかなか追い付けない。
痛みを我慢し小走りをすると、それに気付いたのか岡本さんは歩むスピードを落としてくれる。
こう言う優しさが自然と出来ちゃうなんて。
岡本さんに好きになって貰える人はどんな人なんだろう。
羨ましい。
ゆっくり歩く事、数分。
沈黙の時が流れた。
あと少しで駅に着いちゃう。
何か話さないと…
「あのっ。岡本さん。」
「うん?」
「えっと。ご馳走さまでした。」
「すっごく美味しかったです。」
「教えて頂いた先輩さんにもお礼をお伝え下さい。」
「うん。気に入って貰えて良かったよ。」
「先輩にも伝えとくね。」
「こっちこそ、来てくれてありがとう。」
少し前を歩く岡本さんが吸い込む呼吸音。
その音に伏せていた顔を上げると岡本さんと目が合う。
「ね??」
岡本さんの後ろには輝く夕日。
その光が眩しくて、顔が見えない。
少し目を細めて、岡本さんの影に入り目をこらす。
「あのさ…」
差し出される手。
「駅まで手……繋がない?」
影が掛かり、ようやく岡本さんの顔が見えた。
その瞳は、少し大人びていて。
私の知ってる岡本さんとは違う。
頬が赤く染まって見えるのは気のせいかな?
この人をもっと知りたい。
私は、大きくなる心臓の音と共に岡本さんの手を取った。
「岡本さん…ありがとうございます。」
貴方の隣を歩けるのが嬉しいんです。
本当に好きかどうかは、まだ分からないけれど。
それでも私は、今こうして隣を歩けるのが嬉しいと思うんです。
これだけは、自信があります。
私は、貴方の事が知りたい。