第6章 請願
「ね?やっぱり声優って同じ業界の人と付き合ったりするの?」
興味津々に話しかける友人。
「うーん。多いかもね。」
「ふーん。そうなんだ。」
ストローに口を付けて、こちらを覗う。
「で?日菜乃は、好きな人いるの?」
「え…」
「あはは。その反応はいるんだ。」
ニヤニヤしながらグラスを手に取る。
「憧れてた人?」
「いや…その人は…」
視線を逸らし、目の前のエスプレッソに砂糖を入れる。
少し胸が苦しいけど、大丈夫。
「そっか。違うんだ。」
「それで、どんな人?」
「えっと…」
「好きかどうか分からないけど…。」
「人気の人で。」
「大人しめな雰囲気な人だと思ってたんだけど」
「『可愛い』とか『羨ましい』とか突然言われたりして…」
「は?」
「この前は、一緒にパンケーキ食べに行って」
「はぁ??」
「帰りに手を繋いだ…」
「はぁ!?」
目を見開いて、大声を出す。
「ちょっと!声大きいよ。」
「ごめん。でも、とんでもない人だね…」
「絶対、日菜乃の事好きだと思うけど。」
「いや…私なんて相手にして貰えないよ。」
自嘲気味に笑って、エスプレッソに口を付ける。
「いやいや。それで好意持ってなかったら…魔性だね。」
「岡本さんは、そんな人じゃないよ…」
「『岡本さん』ね。」
机に置いたスマホを手に取り、画面をなぞり始める。
「ちょっと…何やってるの?」
「ググってる。」
「へー。『岡本信彦』さん。」
「この人が、そんなこと言うんだ…」
「はー。この顔で、言われたら…ね。」
頬杖を付いて、ため息をつく。